追記: 続編的なものを書いた。
今年は色々なことに手を出してみよう、ってことで少し前からGoogle App Engine(以下GAE)で、あるモノを作っている。モノ自体は近いうちに公表できると思う。
基本的に、Pythonと標準っぽいフレームワークだけでやってみている。作っているものがそれなりにシンプルなのと(だからこそGAE!)、GAEでそれなりの規模の開発をするのが自分自身初めてということもあり、あまり色々なレイヤーを重ねて手こずりたくなかった、ってのがその理由。
ただ、GAE初心者なので、「いやいやそれは今時ないよ」「XXの方が100倍いい」とかあったら教えてくれると嬉しいので今のところの環境を書いておくことにした。今ならスイッチ可能。
今作っているものがJSONファイルを入出力するだけのものなので、HTML生成パートみたいのはない。
1. フレームワーク
上にも書いたように、今回は、わりと単純なアプリケーションの作成なので、Google App Engine (Python)で提供されている最小限のフレームワークだけを使っている。
2. Pythonのバージョンは2.5
Mac (Snow Leopard) だと、2.6と2.5の両方が入っていて、デフォルト(/usr/bin/python)のバージョンは2.6。そのため普通にGoogle App Engineの開発環境をインストールすると2.6が使われてしまっていて、最初の数時間無駄にした。
defaultコマンドで /usr/bin/python の指すバージョンを変えられるようだけど、他に影響を与えたくなかったので、今回は、
- コマンドラインから実行するpython関連のコマンドは2.5を付けて実行(例: easy_install-2.5)
- GoogleAppEngineLauncherで、 /usr/bin/python2.5 を指定
で、なんとかなっている。
3. ディレクトリ構成
「GAE/Pythonスタンダードなディレクトリ構成」みたいのはないようなので、いろいろな公開されているプロジェクトを参考にして以下のような配置にしてみた。最初はもうちょっと深い構成にしていたのだけど、これぐらいで十分かも。今のところModelは1ファイルにまとめてるがだいぶ増えてきたので、近い将来分離する予定。
application dir/
models.py
handlers/foo_handler.py
handlers/bar_handler.py
tests/test_foo_handler.py
tests/bar_foo_handler.py
main.py
app.yaml
controller的なものをhandlerと呼ぶみたいなのでそうしてる。
4. テスティング環境
もう当然TDDだよね、ということで最初に手をつけたのがテスト環境の構築。
まず、ここしばらくWeb開発でRuby on Rails + rspecメインな生活をしていることもあり、GAE/Python上でもそれっぽいのを探してみたところ、いくつかそれっぽいのはあったのだけど、「開発が活発ではない」「使いづらそう」という感じがしたのでその方向は諦めて、普通にUnitTestでいくことにした。マイナーなものを使うよりも、自分以外の人が触ることになったときのことを考えて、ふつーなものにしておいたほうがいいかな、という判断もある。
素のUnitTestだけだといろいろいまいちなので、以下の物を入れた。
sudo easy_install-2.5 nose
sudo easy_install-2.5 nosegae
sudo easy_install-2.5 gaetestbed
sudo easy_install-2.5 webtest
使い方等は、その中のgaetestbedの README 読めばなんとなく使い方はわかるので省略。
5. doctest併用
UnitTestの他に、コードの中にテストを書ける doctest も使っている。基本的にhandlerのテストはUnitTestで、modelのテストはdoctestで書いている。
併用している理由としては、長い間うっすらと「なんかdoctestいいなー、いつか使ってみたい」と思っていたのと、今回はそれほど複雑なmodelがないというのがある。
nosegaeは、UnitTestとdoctestの両方を同時に扱えるので、この二つを混ぜても素直に全体のテストの実行が1コマンドできる。オプションに—with-doctest を付けて、
> nosetests --with-gae --with-doctest
こんな感じ。CIでもほぼこれと同じコマンドを実行している。
6. セッション管理
GAEでは、Googleアカウントと連動したセッション+アカウント管理は標準で提供されているようだけど、今回は自前でセッション/アカウント管理をしたかったので、それは使わずに、セッション管理には gae-sessions を使ってみた。他にも色々あるのだけど、単純で軽そうだったのでこれにした。
そのライブラリの作者が作った他のライブラリとの 比較表 が参考になる。完全勝利になってるのは若干あやしいが。
このライブラリで作成したセッションに、自分で作ったユーザ用のモデルを入れるという簡単実装にした(gae-sessionsのセッションの実装自体は普通にCookieを使ったものなのでデバッグ等も簡単)。
一つ躓いた点として、gae-sessionsの導入手順をREADMEに従うと、 appengine_config.py を作ってそこでmiddlewareをセットする、となっている。ただ、ローカルの開発環境でnosegaeを使いunit testを流すと、 appengine_config.py は読んでくれないので、main.py の中で直接読み込んでごまかしてる。こんな感じ。
application = SessionMiddleware(
webapp.WSGIApplication([....],
debug=True),
cookie_key="hogehogehogehogehogehogehogehogehogehogehogehogehogehoge")
7. 本: Code in the Cloud
とりあえずGoogle App Engineを始めるにあたって何冊か読んだ本の中でそれなりに良かった奴。JavaとPython両方が書いてあるのが微妙に読みづらいが、最初に読む本、としてはそこそこいい本だと思う。テスト関係のことはほとんど載ってないけど。
8. まとめ
以上の環境で、ぼちぼちコードを書いているけど、気持ち良くTDDができている。GAE自体は思ってたよりも(話に聞いていたよりは)複雑でも難しくもなく素直だなーって印象。ドキュメントもわかりやすい。まあ、後発組は楽だなあ、と。
とは言え、もうちょっとやると壁にあたりそうなので、そのときまた何か書きたいと思う。
9. 参考にしたもの
http://www.cuberick.com/2008/11/unit-test-your-google-app-engine-models.html
https://github.com/jgeewax/gaetestbed/
http://www.slideshare.net/adeoshineye/test-driven-development-on-google-app-engine
全体的になかなかいい年だったかな。Web開発に関係するところを挙げてみると、
このブログを始めた
どうもヒキコモリ過ぎてるなと感じていたので、ブログを始めてみた。3日坊主にならずにそれなりに続いたのは良かった。やっぱり、自分を外に出すことは自分を客観的に見るためにも大切だ。
おかげさまで、そこそこの反応を頂けたりと、なかなか楽しいです。
技術面
Rubyを始めて2年目にしてRubyとRailsが身についた、って感じかなー。自分の学習曲線の中のいいタイミングで、 Metaprogramming Ruby という良本に出会えたのが良かった。
また、去年の後半くらいからMongoDBを追いかけていたのだけど、今年の後半、実際のシステムで少し使うことができて手応えを得ている。今後は、もうちょっと大きいところでも使ってみるつもり。MongoDBいいですよ。
スクラム初体験してみたのも今年だったかな。これは正直、完全に自分の武器になったか、と言うと微妙なところ。もうちょっと実戦で勉強。
来年
来年は、仕事面でちょっと変化の年にしたい。ここ数年、いい面でも悪い意味でも安定してしまっているので、少しかき混ぜたい感じ。
流行に乗り、スマートフォンやGoogle App Engineなどにも急激に興味が出てきたので(やらなきゃまずいかな、というのもある)、そっち方面を攻めるのが濃厚。流されやすいんです!
そんなわけで、来年もよろしくー!
前から気になっていた Heroku + MongoHQ を試してみた。HerokuはRubyアプリケーションを走らせるホスティングサービスで、MongoHQはMongoDBのホスティングサービスだ。この二つを組み合わせることで、MongoDBを使ったRubyアプリケーションを一瞬で運用開始することができる。
あまりにも簡単に使えてあまり書くこともないんだけどメモ。
まず、両方とも最低限の環境は無料で使用できる(ただしHerokuからMongoHQを使うためにはクレジットカードの登録は必要っぽい)。
今回は Ruby on Rails 3 + Mongoid で作ったアプリを置いてみた。
手順
1. まず、普通に RoR + Mongoid のアプリケーションを作る
2. Herokuにアカウントを作りアプリケーションを登録する (http://docs.heroku.com/quickstart )
3. HerokuでMongoHQを有効にする (http://docs.heroku.com/mongohq )
$ heroku addons:add mongohq:free
4. Mongoidの接続情報であるconfig/mongoid.ymlのproduction環境のところを以下のように書き換える。
production:
uri: <%= ENV['MONGOHQ_URL'] %>
追記: もしくは、 config/initializers/mongohq.rb のようなファイルを作り、 そこで指定する。
if ENV['MONGOHQ_URL']
# For Heroku (See: http://docs.heroku.com/mongohq)
Mongoid::Config.instance.from_hash({"uri"=> ENV['MONGOHQ_URL']})
end
5. 普通にHerokuへdeployする (具体的には、gitでHerokuにpushする)
これだけで、MongoHQのMongoDBを使うようになる。超簡単。
(ちなみに、ここ最近、RubyとMongoDB間のORMはMongoidしか使っていない。一時期、 MongoMapper を使っていたのだけど、Mongoid の使いやすさに負けた。機能的には大きく変わらないのだけど、ちょっとした細かいところとか、センスの良さが全然違う。)
気付いたところ
1. Heroku経由でMongoHQを使うとMongoHQにログインできない?
MongoHQにも管理画面的なのがあるっぽいのでこれはちょっと嫌だ。(何か方法ありそうだが)
2. ここ にあるように、MongoDBの接続情報を取得し、自分の環境からHerokuを通さずに直接接続も可能。
バックアップもmongodumpコマンドで普通に取れるし、 Mongoシェル でアクセスするのも問題ない。これは便利。
ただ、便利なのだけど、つまりMongoHQのMongoDBは全世界から接続可能なので、接続情報や、ID/パスワードの管理は慎重にする必要があるのがちょっと厳しい。例えば、Rubyアプリ側では、 ENV[“MONGOHQ_URL”] にID/パスワード含む接続情報がすべて入っているので、デバッグ目的などでENVを間違えて表示しちゃったりすると大惨事になりそう(これはHerokuのMySQLとかPostgreSQLとかも同じっぽいが)。
3. HerokuからMongoHQまでのlatencyは一桁ミリ秒だった。
なんとなく不安だったのだけど問題なさそう。
まとめ
RoRとMongoDB(Mongoid)のスキーマレスでの素早い開発と、簡単にデプロイできるHeroku+MongoHQの相性がとてもよい。ちょっとしたアプリケーションを作ったり、プロトタイプを作って色々な人に見せたい場合にとても向いていると感じた。もちろん、アクセス数やデータベース容量にあわせて、Heroku/MongoHQともに有料コースに切り替えて本番環境として使い続けるのも問題ないだろう。
また、「Heroku+MongoHQで動かす」と言っても、アプリケーション自体はもちろん普通のRuby(Rails)とMongoDBなので、Heroku/MongoHQが嫌になったら、他へ移ることも、自分で運用するのにも何の問題もない。「とりあえず作ってHeroku+MongoHQで動かしてある程度軌道に乗ったところ次を考える」というのが可能だ。これはかなり魅力的(今、世の中はロックインが流行ってるようだし!)。
このブログは「何か書きたい」というのと「色々試したい」という欲求を満たすために今年の一月に始めたわけだけど、その「試したい」ことの一つが「はてなブックマーク(以下はてブ)」だった。
自分自身はブックマークとしては delicious を使っているのだけど、はてブもRSSで人気エントリのものはなんとなく読んでいるし、twitterでも、はてブが元の話題がそれなりに流れているし、影響力がそれなりに強いように思う。
それで、 前回の記事 に、たくさんのはてブを頂いたので、ちょっとアクセス数を出してみる。
また、同じように、今、旬なtwitterからのアクセス数も出してみる。タイトルの"761 ツイート"ってのは、twitter公式の Tweet Button で表示されてる数。
visitor数 (Google Analytics調べ)
トータル | はてなブックマーク経由 | はてなトップ経由 | twitter経由 | |
---|---|---|---|---|
19日 | 12,261 | 3,059 | 1,336 | 710 |
20日 | 7,465 | 2,497 | 51 | 395 |
21日 | 1,670 | 234 | 18 | 96 |
22日 | 704 | 90 | 0 | 32 |
記事を投稿したのが19日で、普段のvisitor数が数百なので、どかーんと増えてだいたい丸3日で正常運転に戻ったようだ。ほとんどが、はてなブックマークのトップページ(人気エントリ)と、はてなのトップという掲載期間のあるものだから当然か。
twitterは自分が想像していたよりも息が短く、同じように丸3日ぐらいでブログへのアクセスもほとんどなくなり、自分宛のmentionもほとんどなくなった。もちろん、記事の内容や質によってはもっと後を引くこともあるんだろう。
もちろん、リファラーからの分析なので、専用クライントとか、RSSリーダからのものは入ってない。特にtwitterはそういうのが多そうだなあ、と想像はできる。
数字的には、正直なところ、まあこんなものか、という感じ。もう数倍くらい多いのかなと勝手に妄想していた。
ええ、普段はB2BのWebのお仕事なのであまりこの辺の分析をしたことがない。そろそろ勉強しないとね。
おまけ – そのアクセスによって:
followers/subscribersの増加
- twitterのfollowerが+100
- Google Readerのsubscribersが+116
- livedoor Readerのsubscribersが+53
ネットワーク使用量: 1.85GB
このブログで使ってるVPS の契約は月間100GBなんでしばらく平気そう。
はてブのコメントへの感想
コメント は基本的に「共感できる」と「勉強になる」とが大部分だった。感想文/反省文なんで、あんまり叩かれることもなく静かだった。
IE6だと化けるよ、について
直した。content-typeのヘッダーにtypoがあったorz
IE/Firefox/Chrome/Safari/Opera/w3m 辺りの最新版ではたまに確認しているのだけど、IE6とかもう仕事だけで勘弁してよ! ってのはある。
また、このブログでのIE6は、通常時で0.7%くらい。今回の一時的にアクセスが多かったときで1%ぐらい。こういうブログでまだ1%弱いるってのはほんと驚き。
それでは、静かに戻ったこのブログを今後もよろしくー。
2002年、当時設立したばかりの会社に入り、何もない状態から、コンテンツとシステムを作り続け8年が経った。日々、試行錯誤しながら、それなりに会社も大きくなり、まだ、大成功とは言えないけど、それなりにうまくやってきたつもりだ。
しかしながら、その8年という短くはない時間の中で、色々な課題や問題が発生し、その時々正しい選択をしてきたつもりだったけど、反省点も多い。もう一度スタートアップに参加するとしたら、やり直したいところや、もっと早くこうしていれば良かったというところがたくさんある。
そんなわけで、次の挑戦のときに忘れないように、また、もしかして誰かの参考くらいになればと思い、メモっておくことにした。1
まず、反省点の前に、何をやっているのかというのを簡単に。
ビジネスとしては、英語e-learningのWebサービス(ネットを使った英語のお勉強)をASPな形で、企業や大学などに提供している。開発はすべて社内で行ない、データセンタに自前のサーバを持ち運用している。
Web業界の花形(?)であるB2Cではないので、そっちだと違ってくることも多いかもしれない。近い将来B2Cもやりたいのだけどね。
社内での自分の役割としては、入社以来、技術的なところを一通り見させてもらっている。開発から保守、運用、ユーザサポートのヘルプといったシステム周りはすべて。もちろん自分でプログラミングもする。また、システム側の人材の確保なども行っている。
そんなわけで、下記のことも「純粋な一(いち)プログラマ目線」なことや「マネージャ目線」やその他色々な目線が入り交じっているので、その辺はそういうことで。マルチロールで幅広くできるのもスタートアップの楽しさの一つでもある。
では、以下に反省点と課題をずらずらと挙げてみる。
システム開発についての反省点
1. 丁寧に正しく作ろう
一つだけ選ぶとしたらこれ。これがすべてにつながってくる。スタートアップ企業にとって、スピードが大切というのは間違いないのだけど、目先のスピードのために、色々なことを犠牲にしてしまっていたことがあった。正しく丁寧に作ることが中長期で考えるとスピードにもつながる、ということを頭で理解しつつも、つい手を抜いてしまっていた。
まず、「今必要でないことはやらない – YAGNI 」ということを常に考えよう。そして、その上で「今必要」となったものは全力で丁寧に正しく作ろう。
丁寧に正しく作られたアプリケーションは拡張がしやすくメンテナンスもしやすく不具合も起きづらい。当然のことを当然のようにやることがとても大切。
自社で、自社のシステムを作る場合、一度作って終わりというわけではなく2、永遠に自分達でメンテナスをしていかないといけない。そういうことも念頭において「未来の自分達のため」にも正しく作ることを意識しよう。
「丁寧に正しく作る」例
丁寧に正しく作る、というのは、基本の繰り返しでしかない。例えば、
- RDBを使うなら、
- トランザクションが必要かどうかきっちり判断したか
- ロックする範囲は最小になってるか。デッドロックは起きないか?
- 正規化、非正規化についてしっかり考えたか
- 富豪的になりすぎてないか
ハードウェアは確かに速くなって安くなった。でもあらゆることをを富豪的に作っても吸収してくれるほどではない。 - WebページのHTTPヘッダーは適切にセットされてるか
- キャッシュ(しない?ブラウザで?proxyで?)のことは考えたか
- ログファイルのローテーションは正しくしてるか
- ログファイルの監視はできているか。ただのディスクの肥やしになっていないか
- テストは正しく書けているか
- テストは正しく常に実行されているか
- サーバの監視や異常の際の通知はできてるか
- エラー処理が正しく出来ているか
- 人間が同じ作業を繰り返さないでいいような自動化ができているか
- ドキュメントは必要な粒度でしっかり残っているか。更新されているか
- 無駄なドキュメントを作り過ぎてないか
などなど
一つ一つは「わかってる!」ということでも、つい手を抜いてしまうことも多いので、そこをさぼらないということをチームとしてできることを考える。
2. 丁寧に正しく作れないなら既存のプロダクトを使う
丁寧に正しく作るのにはしっかりとしたリソースが必要。ただし、人やお金というリソースは常に限られているので自分たちが集中しないといけないところをしっかり決めよう。
独自フレームワークはやめよう
独自のフレームワークは正しく作れないならやめよう。「正しく作る」というのはメンテナンスとか含めて。もし作るなら専用のリソースを確保するぐらいできないと無理。片手間でフレームワーク作りとか無理。外部に向けて公開しても恥ずかしくないレベルのものを作れるようでない限りはやめたほうがいい。
独自なスケーラビリティやパフォーマンス向上は最終手段
分散やキャッシュなど、プログラマなら誰もが自分ならもっといいものが書ける、書きたい、となってしまいがちだけど、これもフレームワークと同じでできるだけ既存のプロダクトで行くほうがいい。この辺は本当に難しいので、簡単に手を出してはだめ。
もう一つの問題点
作るのが難しい、メンテナンスが難しい、ということに加えて、もう一つの問題点は、新しく加わった人の教育コストが高くなるということがある。まず、外の資源(ドキュメント/本/Google検索)が使えないので自前ですべて教育をしなくてはならない。また、独自であるが故に、そのフレームワーク等の経験者を採用することもできない。新しく入った人は常に0からのスタートになる。これは立ち上がりのスピードを重視する環境では難しい。
また、上述したようにリソースが足りなかったりで、その独自に作ったシステムがいまいちの場合、そのシステムに対する新しく入った人のリスペクトが得られないことにも繋がり、その結果その人のモチベーションの低下にもつながる。
この辺りをすべて背負ってもでも、本当に自分たちで作ったほうがいいのか考えよう。
3. システムのモジュール化/疎結合を考える
自社で自社システムを開発していると、わかりやすい「開発の切れ目」のようなものが、なかなかないので、どうしても「拡張、拡張」になってしまい、全体的に見ると継ぎ接ぎのシステムになってしまう。その結果、すべてが一枚のモノリシックなシステムになってしまい、部分的に新しいことを試したりするのが難しくなってくる。
具体的には、8年の歴史の内、5年くらいは、ほぼPHPとFlashで作ってきて、それを2年ほど前から、全面的にRuby on RailsやJavascript/CSSといったものに移行している。正直なところ、結構辛い。サブシステム毎に、別システムにしておいて、それぞれを疎結合(APIとか/DBレベルで結合)するようにおけばよかったかなー、と思っている。そうすれば、部分的に新しい技術で置き換えるのはもう少し簡単にできたのかもしれない。
もちろん、そういう作りにするとサブシステムそれぞれに、同じようなものをポーティングする必要が出てきたりとオーバーヘッドも大きくなるので、その辺はよく考える必要があるのだけど。
4. 技術的負債はできるだけ早く返そう
できるだけ丁寧に作っても、どうしても 技術的負債 はたまっていく。会社が少しでも落ち着いたら負債の返済について考えよう。
返済を後回しにすると、負債の利子が貯まるばかり。利子はあちこちで発生する。「運用で回避」のコストで払ったり、顧客対応に取られる時間で払ったり、システムに対する信頼の低下ということで払ったりもする。また、緊急の徹夜作業で払ったり、と言った人に負担をかけることで払うこともあるだろう。
うちでは、少し前から返済に当てる時間を多くとっているのだけど、今思うと数年前にも大きく返済できるタイミングがあったはず。でも、それをやらずに走り続けてしまった。その結果、利子をずいぶん払ってしまった気がする。
技術的負債を負いつつ、でも走り続け経営がそれなりに安定する。このときに、最低一回は技術的負債の棚卸が必要だろうと思う。全部返済できなくても、利子の高いもからどんどん返済していくべきだろう。
どうしても、一度落ち着くと、さらに次へと攻めたくなってしまうのだけど、そこで一度振り返ることがとても重要だと今は思っている。
サーバ周りの反省点
最初に書いたように、データセンタ内に自社でサーバを運用もしている。これにも色々な反省点がある。
5. ハードウェアは正しく適正なものを買おう
初めの数年間、知識的なことや時間が足りなかったもあり、サーバを購入してそのまま使って、遅くなったらあまり考えずに新しいサーバを追加していた。今思うともったいないことをしていた。「システムが遅い」となったら、何が「遅い」のかを調べ、それに対する効果の高い投資をしよう。
それと、自分自身、根がケチな上にソフトウェア側の人間なので「そんな高いマシン買わなくていいよ。遅かったらソフトウェア側で頑張るよ」とか思いがちだったのだけどそれは間違い。ソフトウェアでカバーできないこともたくさんある。ケチって中途半端なサーバを買ってしまい、拡張性(メモリやディスクの増設等)が低く、にっちもさっちもいかなくなる、仕方ないのでまた買う、という悪循環に陥る。
もちろん、割り切って安いサーバをたくさん買ったりするのは別の話だが。
6. サーバ周りの人材をしっかり確保しよう
上のことをきっちりやるためには、最初から、少なくとも、お客さんが少しでも着いた後は、専任の人を入れたほうがいい。
最初のうちは、サーバ周りもプログラマ中心にやっていたのだけど、やはりそれには限界がある。本職の人がやるのは、プログラマが片手間でやるのと比べ、深さも広さも全然違う。
また、プログラマはシステム開発に集中した方がいい。
7. クラウドも検討しよう
8年前には、選択肢や自由度がなかったのでどうにもならなかったけど、現在では、場合によってもクラウドも検討すべきだろう。もちろんリスクやコストを正しく判断する必要あるけど。
組織についての反省点
人が大事。チームワークが大事。本当に大事。ちょっとシステム開発からは離れてしまう部分もあるけど、とても関係するところなので。
8. いい文化を作ろう
これは本当に難しい。自分の中で全然答えが見えない。
人々の行動が文化を作っているような気もするし、文化が人を作っているような気もする。まあ、好循環が大事なのだろう。先にいる人やチームの行動や習慣は、いい意味でも悪い意味でも新しい人に伝播してしまうので、そこは常に意識すること。成功している企業にはかならずいい文化があるものだろう。
一度できた文化は、いい文化も悪い文化も継続しやすいことを常に頭に入れる。
9. 途中から入ってきた人
こういう小さい会社に途中から入ってくる人というのは「今、会社が直面する課題や問題」を解決するために入ってくることが多い。ミッションが明確なだけに、そのミッションを完遂することがその人のプライオリティになるし、その人ももちろんそのつもりで入ってくる。
もちろん、会社も周りもそれを一番期待している。しかし、期待しているのだけど、組織で動いていると、そのミッションと前からいた人のミッションがデッドロックすることもある。また、会社のリソースは有限なので、その新しく入った人が完遂するのに必要なリソースを必ずしも割り与えられるとは限らない。
そういう事態になってしまうと、入ってきた人が腐りがちになってしまう。最初からいる人はその辺の事情を汲みとって、現在できる範囲で実現する方法を探すのだけど、途中から入ってきた人はその方向になるのはとても難しい。この辺のサポートがすごく大事。
10. 朝礼? 日報? 週報? 社内勉強会?
この手の物には否定的だったのだけど、やる意味が多少はあるのかな、と最近は少し思っている。初期の頃はそういうのがなくても情報は共有されるし、士気も高いんだけど、人が増えてくるとどうしても必要になってくるような気がしている。
この辺は、完全に否定せず、必要な物はどんどん取り入れていきたい。
11. 社内の距離感 / 縦割り
「途中から入ってきた人」にも関係することなんだけど、最初のうちは全員が同じ方向を見ているのだが、だんだん社員が増え大きくなるに従って、社内で距離感が出てくる。部署毎の損得、面子、プライド。みたいのが出てくる。「こんな小さな会社でそんなこと発生するのがバカバカしい」とか思ってしまうのだけど、人が増えるとどうしても発生してくるようだ。
特にうちの場合、オフィスがロンドン(開発)、日本(営業/運用)、中国(営業/運用)と分散しているので、元々物理的な距離感がある上に、だんだんと精神的な距離感も出てきてしまった。
そして、物理的/精神的に離れていると、ネガティブなことはそれでも伝わるのだけど、ポジティブなことは伝わりにくくなっていく。たとえば「この機能かっこいいね」とか「この前のやつ結構お客さんの評判いいよ」とか、日頃のちょっとしたポジティブの感情がとても伝わりづらい。特にうちは非ITな感じの人も多いので、そうなるとなおさら。そうすると結果的に「いつもあいつらは文句言ってる」ということになってしまう。そうしていると、「共通の目的/ゴール」を持つのが難しくなっていく。
この辺は早いうちに手を打っておいたほうがいい。もちろん、全員が一箇所でできる方法があるならそれがベスト。
12. 採用について
こういう小さな企業に入ってくれる優秀な人材はなかなかいない。それでも、最初の小さ過ぎる段階では、勇敢な(無謀な?)チャレンジャーが集まる。しかし、ある程度軌道に乗ってしまうと、外から見ると「ただの中小企業」になってしまい、だんだんと難しくなっていくのを強く感じた。
基本的に、スタートアップ企業にできる人材確保の路線は2つしかないだろう。一つは既にいる社員の紹介、もう一つは技術者が入って楽しい企業ということを外にアピールすること。うちの場合は前者でそれなりに回ってきているのだけど、後者がほとんどできていなかった。
また、その上で、常に数カ月先を見越して採用活動をしておくことも大事。人は探してすぐ見つかるものではない。
最後に
上のことは今現在思うこと。
ただ、ここまでずらずら書いておいてあれなんだけど、これらのことは全部、条件次第でいくらでも変わる。上のはこの8年間で与えられた条件の中の行動に対しての反省点。今後全く同じ状況が現れることは、結局はその場その場で考えぬいて進んでいくしかないのかな、とも思ったりもする。
そして、それがスタートアップ企業の楽しみ方でもあるのかな。
1 ちなみに、次の挑戦の具体的な予定はないし、というか、まだ今の会社で挑戦中! でも、正直なところ、もう一度何も無いところから自分の力を試してみたいという願望がないことはない。まあ「すべてをやり直したい症候群」はありがちなので、これもそれかなと思ってもう少し今の会社でまだ何ができるか、というのを考え実践するつもり。
2 SIer的な開発が、作って終わりと言ってるわけではないですが。